コラム

 公開日: 2011-08-11  最終更新日: 2014-06-03

虫太郎の伝言板 ⑥

虫の文化史(虫偏の虫)⑥
―人と虫が奏でる文化―

もう一つの「徒然草」

アリとダニの問答

鎌倉時代の仏教説話集に、「沙石集」(しゃせきしゅう)があります。この中に、「アリとダニの問答」の話が登場します。
 
ダニがアリに聞きます、「どうしてアリという名がついたのか?」と。アリは答えます、「真中がくびれた体型だから、体の前後がある という意味で、アリという名前がついた」と。

するとダニは、「それなら、※輪子(りんし)のような真中がくびれた道具は、みんなアリと呼ばなければならないじゃないか。」と反論します。
※(輪子とは、ジャグリングのディアボロのようなもので、お椀を二つお尻で貼り合わせたような道具。二本の棒にヒモを付けた道具で回したり、投げ上げたりして操ります。)

さて、これに対してアリは返します、「輪子はアリという名前がつく前に輪子という名前がついたから、アリとは言わない。」と。

今度は、アリがダニに、自分の名前の起こりを聞くと、ダニは、「背中が窪んで、谷に似ているから、ダニだ。」と答えます。

「沙石集」(しゃせきしゅう)

少し、イソップ物語の香りもするこの「沙石集」は、800年くらい前に、禅僧の無住道暁(むじゅうどうぎょう)という人が書いたものです。

砂や石のような話、と謙虚に題した仏教訓話ですが、堅苦しい説教や綺麗ごとではなく、身近な話題や戯れごとや笑い話が盛り込まれて、面白い読み物です。

「隠れファン」も多く、現代語版の本も出版されています。
無住道暁は、吉田兼好と時代も同じで、沙石集は「もう一つの徒然草」と言えるでしょう。

ちなみに、アリの語源については、よく判っていません。
くびれて前後があるからアリというのは、かなり怪しい。
ダニについては、背中が窪んで谷みたいだから、という説も実際にあります。



(紗石集(日本古典文学全集))
つづく

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